非結核性抗酸菌症について

東海地方も梅雨入りとのことで、ジメジメした季節になってしまいました。

さて今回は非結核性抗酸菌症という病気について触れたいと思います。あまり聞いたことがない病気ですが、最近はたまにメディアにも取り上げられることもあり徐々に知名度が上がっているようにも感じます。またそれにつれて気にして頂ける方が増えたことが原因かもしれませんが、近年診断される患者さんは増加傾向にあります。詳しく書くとキリがありませんので、普段外来で患者さんから聞かれる頻度の多い質問に答える形式で説明したいと思います。

Q1:非結核性抗酸菌ってどんな菌ですか?結核とは違うんですか?人にうつるんでしょうか?

A1:結核菌も非結核性肺抗酸菌症も酸性に抵抗性を示す「抗酸菌」に分類されます(胃液の強酸でも死滅しません)。非結核性抗酸菌症は結核菌以外の抗酸菌による感染症で、その種類は100種類以上が知られていますが、下の円グラフのように人に感染する菌種は比較的限られています。

わが国では抗酸菌の約8割以上がM.avium、M.intracellulareの2菌種を合わせたマック菌(マクドナルドではなく、Micobacterium Avium Complexの略です)、1割がM.kansasiiという菌であり、残りがその他の100種以上の様々な菌で占められています。中高年の女性に多い傾向があります。 非結核性肺抗酸菌は土や水などの環境中、またご家庭の排水口やシャワーヘッドなどにも存在する菌で、結核菌とは異なり人から人には感染しませんし、毎日暴露されていても多くの健常人は感染しません。ほとんどの感染巣は肺ですが、稀に関節や脊椎、免疫の弱った方に全身播種性に病巣が出てくることもあります。肺病変に関しては進行は非常にゆっくりで5年10年かけて肺の中に病巣が広がってくることが多いです。数週間単位で進行する結核と比べても明らかに進行がゆっくりです。

Q2:肺非結核性抗酸菌症の症状は?

A2:無症状で経過して健診でのレントゲン検査や、他の病気で検査中に偶然見つかるケースが寧ろ多いのですが、症状としてみられるのは慢性的に経過する咳や痰です。肺病変が進行して肺組織の破壊が進むと血痰を伴うこともあります。さらに肺の病変が進行すると(といっても10年以上の経過ですが)呼吸不全を呈したり、肺炎を合併しやすくなったりと色々困ったことが出てきます。

肺病変に関しては菌種にもよりますが、肺の特定の部位の破壊で「気管支拡張症」という病変ができて徐々に広がっていくタイプや、肺組織の中にツブツブが広がっていくタイプ、肺内に空洞を形成して結核と区別しにくいタイプなどがあります。

Q3:罹患しやすい人の特徴ってあるんですか?

A3:明らかに中高年の女性に多いです。中でも多いのは気管支拡張症を伴う病変が広がるタイプです。もともと気管支拡張症を持っている頻度が多いためと思われますが、そのような病変は吸い込まれた抗酸菌に対しての局所での防御力が落ちているのが原因と考えられています。

また膠原病やリウマチ疾患に罹患して免疫を抑制するお薬を使用中の方、悪性腫瘍で抗がん剤治療を受けている方などは罹患するリスクは通常人より高いと言えるでしょう。

Q4:どのような検査で診断するのですか?

A4:レントゲンやCT検査で疑われた場合、最も簡便かつ確実なのが喀痰検査による菌の検出です。この菌は顕微鏡では結核菌と見分けがつきませんので、喀痰を用いた特異的PCR法(いわゆる菌に対するDNA鑑定です)による菌種の同定を行います。一方、痰が出せない人は診断が大変です。胃液検査を行ったり、それでも菌検出ができない場合は時に気管支鏡検査(肺の中をみる内視鏡)を行って、病変の部分を少量の生理食塩水で洗った液体を回収することで検査を行います。

結核菌、M.aviumM.intracellulareの3種類の菌に関してはPCR法で数日以内に同定可能です。それ以外の菌種は数週間以上かけて抗酸菌同定検査を行い診断します。

Q5:治療法は?

A5:MAC症の場合、基礎疾患がなく無症状で一定期間経過観察しても進行がない場合は必ずしも治療が必要であるわけではありませんが、そうでない場合は近年積極的に治療導入する傾向にあります。菌種によって使用薬剤が似ているようで違いますので下にまとめます。

1)MAC症(M.aviumM.intracellulare)

 クラリスロマイシン、リファンピシン、エサンブトールという3種類の抗菌薬の併用を標準治療として行います。治療期間は長く最低1年半と長期に渡ります。喀痰からの菌の排出が無くなってから1年程度継続してから投薬を中止し、3〜6ヶ月ごとに再発がないか経過観察を行います。しかし治療による菌陰性化率は40%前後と低く、長期に服用しなければならないことが多いです。エサンブトールに関しては稀に視力障害を来すこともあるお薬ですので、服用に際しては眼科での定期的な視神経系のチェックが欠かせません。

2)M.kansasii

 この菌種は治療の奏効率が高く完治することが多いため、積極的に治療介入を行います。標準治療はイソニアジド、リファンピシン、エサンブトールの3種類を半年間服用します。結核治療とほぼ同じです。

3)M.abscessus

 非結核性抗酸菌症の1%を占めるこの菌には正直医療者としては出会いたくないですが、その理由は迅速発育菌であり進行が比較的早く治療抵抗性であるという嫌らしい特徴があるからです。

治療導入には必ず入院が必要で、イミペネムと言う点滴抗菌薬を数週間使用しながらクラリスロマイシン、アミカシンを内服で開始し、その後イミペネムをファロペネムと言う内服薬に変更して外来で長期に服用します。アミカシンは腎障害や聴覚障害を呈することがあり、服用に際してはそれらのチェックのため耳鼻科での定期チェックを行うことが多いです。

日赤のような大きな病院には多くの患者さんが集まってみえますが、最初の数週間〜数ヶ月で安全に治療導入ができ副作用もなく良好に経過している場合などは、地域のかかりつけ医の先生に治療の継続をお願いしているケースがしばしば見られます。

Q6:手術で治るって聞いたことがあるんですけど?

A6:その通りなんですが、本疾患の手術適応については日本結核病学会が指針を出しており専門医療機関においてはその指針に従い提案を行うこともしばしばあります。

かいつまんで言いますと、薬物療法でも効果が乏しい場合、進行が早い場合、治療が効いても再感染しそうな場合、真菌感染を併発するなどした場合もしくはその危険が大きい場合で、70歳以下で心肺機能が保たれていることなど色々と条件があります。内科医としてはなるべく手術は避けたいと考えてしまうわけですが、手術適応の決定については個々の患者さん毎に慎重の上にも慎重に検討を重ねた上で決定するものであり、また患者さんの考え方や意見を尊重して方針を決定することになります。

お知らせ
近日公開予定
今しばらくお待ちください...
アーカイブ
タグ
まだタグはありません。

© 2016 こうのう内科 Wix.comを使って作成されました

052-443-3631

Tel