【緊急】麻疹の流行

 7月末以降関西を中心に麻疹の流行が発生していますので、肺炎球菌ワクチンの記事の続きの記事ではなく、麻疹について書きたいと思います。

関西国際空港では、乗客だけでなく接客を担当した従業員にも感染していたことが判明したり、尼崎市でも集団感染が報告されるなど地域的な散発が見られ、こちらの地域でいつ発生してもおかしくない状況となっています。

 特にご家族に妊婦の方がいらっしゃる場合、流行が見られている地域に近づかない、仮にこれらの地域にいらっしゃる場合は人混みを避けるなどのアドバイスを差し上げた方が良いと思います。(日本産婦人科学会の注意喚起による)

 ではこの場で簡単に麻疹について知っておきましょう。

1)麻疹の典型的な経過

             (藤井良和ほか:小児感染症学、第1版、南山堂、1985)

 麻疹は麻疹ウイルスの感染後、10~12日の潜伏期間を経て発症します。ですから怪しいと思われた時から2週間ほど遡って、人混みの中に入ったか、感染が疑われる人に近づいたか、などと言った記憶を辿って頂きたいと思います。

カタル期

 まず38℃前後の発熱、倦怠感、咳・鼻汁・くしゃみ・喉の痛みなどの風邪症状、結膜炎症状(結膜充血、眼脂)が出現し、2~4日間続きますが、この時期をカタル期と呼び、麻疹の経過中で最も感染力が強いとされます。お読みになってわかる通り麻疹特有の所見はなく、症状だけでは通常の風邪とまず見分けがつかないのがとても厄介ですね。  カタル期の後半、発疹出現の1~2日前になると、頬の内側の口腔粘膜に径1mmほどの白色の小斑点が認められることが多く、これはコプリック斑と呼ばれ麻疹特有の所見です。

発疹期

 カタル期の発熱がやや解熱して半日ほどすると再び高熱が出てきます。発熱に山が二つあるために二峰性発熱とも称されます。それとともに麻疹特有の皮疹が出てきます。

 発疹は初め耳の後ろから首、額の付近から始まり、翌日になると体全体に広がります。初めは鮮紅色で膨らみはないですが、徐々に膨らんでさらに融合して写真のようになります。指で押すと一瞬色がなくなるのも特徴です。この間39℃~40℃台の発熱が続きます。先に見られた口の中のコプリック斑は、この時期に急に消えてしまいます。発疹は次第に暗い赤色となり、一部色素沈着が残るものの徐々に跡を残さず消えていきます。

 合併症がなければ多くは1週間から10日程度で治っていきますが、麻疹脳炎、麻疹肺炎を合併されると致死的になることもあります。

2)カタル期に麻疹を見落とさないために

 カタル期が麻疹の感染力が最も強い時期であるにもかかわらず、先にも述べたようにカタル期の症状は普通の風邪と見分けがつきにくいのが大変悩ましいところです。ですからカタル症状を認めた場合には、常に麻疹の可能性を頭の片隅に置いておくことが大切で、症状が出現する10~12日前に、「麻疹患者との接触がなかったか」「麻疹が流行している国に渡航していなかったか」「卒業式や入学式、コンサート・ライブと言った大勢の人が集まる場所に言ったことがないか」などと言ったことがヒントになることがあります。  また麻疹の罹患歴や予防接種歴の有無は、麻疹の除外に役立ちます。(予防接種をしていても稀に年月とともに免疫が低下してしまう現象もあるので注意が必要です)  コプリック斑はカタル期から見られる麻疹の数少ない特徴的所見ですので、口の中の診察も欠かせません。

 通常のクリニックのレベルで迅速にできる血液検査では(1)高熱の割に白血球数が少なく(2000~3000/μL前後)、CRPもそれほど高値にならない、(2)成人では肝機能異常を示すことが多い、(3)LDHが高いと言った特徴が挙げられますが、いずれも通常のウイルス感染でも多く見られる現象で、こちらも麻疹に特徴的な所見はありません。(困ったものですね)

 確定診断のためのウイルス学的検査では、(1)咽頭ぬぐい液、血液、尿などからの麻疹ウイルス分離または検出(PCR法いわゆる報道番組で「DNA鑑定」と称される検査法です)、(2)麻疹特異的IgM抗体が陽性、(3)急性期と回復期のペア血清で麻疹特異的IgG抗体価の陽転あるいは2倍以上の上昇、(4)同じくペア血清でIgG抗体価の4倍以上の上昇  のいずれかが陽性であれば確定となります。

 しかし発症早期ではウイルス検出が困難で、IgM抗体も発症3日以内は偽陰性(本当は陽性なのに検査に引っかからない)が多くなるとされ、もちろん(3)(4)の検査の結果が出る前にまず皮疹で診断されていることが多いですので、結論からするとやはり早期のカタル期での診断には、常に麻疹を念頭に置いた詳細な問診と病歴の聴取、口腔粘膜の丹念な診察など、昔ながらの診療が最も大切と考えられます。

3)麻疹の合併症の危険性

 麻疹は多くが自然治癒する病気ですが、合併症の頻度が約30%とウイルス性発疹をきたす疾患の中でも高いとされ、致死率は約0.1~0.2%とされています。従来健康な人が罹患することで命を落としたり、重度の後遺症を残すこともある極めて危険な病気です。しかも麻疹ウイルスに対する抗ウイルス薬は存在しません。  合併症としては、肺炎、中耳炎、クループ症候群、腸炎、肝機能異常、脳炎、心筋炎などが知られています。麻疹の治療は特効薬がない以上対症療法しかなく、発症してしまえば未然に合併症を予防することはできません。  肺炎と脳炎は麻疹の2大死因であり、小児の死亡原因の多くは肺炎、成人の死亡原因の多くは急性脳炎といわれています。死亡例の多くが麻疹含有ワクチンの接種歴が無かったことが報告されており、麻疹ワクチンがいかに重要かわかります。  特に麻疹脳炎の致死率は15%以上と高く、回復しても20~40%に精神発達遅滞、痙攣、行動異常などの中枢神経系後遺症を来すことから特に懸念される合併症です。  また、10万人に1人の割合で、麻疹発症後数年から10年経過した後に、亜急性硬化性全脳炎(SSPE)という重篤な脳炎を発症するケースも報告されており、特に0歳で発症した人でSSPEを発症する頻度が高いとされています。

4)麻疹の感染力は大変強い

 あまり知られていないかもしれませんが、麻疹の感染力はインフルエンザを遥かに凌ぎます。接触感染、飛沫感染だけでなく空気感染もしますので、カーテンなどでの仕切りは全く役に立ちません。例え僅かでも麻疹と疑われた患者の近くにいたなどの記憶がある場合には、受診の際に申し出ていただくことが早期診断に大変重要です。また他の患者さんへの2次感染を防ぐことにもつながります。

 以上長々と麻疹について説明してきましたが、特に現在麻疹の散発が見られる近畿地方からお帰りの後で麻疹が心配であるなど、何かありましたらお気軽にご相談いただければと思います。また麻疹ワクチン(風疹との混合ワクチンのMRワクチン)の定期外接種に関しても当院で随時可能ですので、接種すべきかどうかの御相談も承ります。

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